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SEL教育の視点で進めるピアノレッスン

2026年9月8日

こんにちは!中西美江です。前回はポリヴェーガル理論を通じて「安心」の土台についてお話ししました。

今回は、その土台の上に何を育てていくか?

と言うことでSEL教育(社会情動学習)の視点から、ピアノレッスンの進め方をお伝えします。

SEL(Social and Emotional Learning)とは、

自分の感情を理解し適切に扱う力、

他者と良い関係を築く力、

責任ある意思決定をする力など、

いわゆる「非認知能力」を育む教育的アプローチです。

学力テストでは測れない、けれど人生を支える力として、世界的に注目されています。

昨今では「非認知能力」を育てるワークショップも沢山行われているようです。

ピアノレッスンは、実はとってもSELを育むのに非常に適した場所ですし

ピアノレッスンそのものが「SEL教育」のためにあるようなものだと思っています。。

  • 自己認識:「今日はうまく弾けなかった」という気持ちに気づき、それを言葉にする経験

  • 自己管理:練習をどう組み立てるか、うまくいかないときにどう気持ちを立て直すかを、スモールステップで学ぶ経験

  • 他者理解:発表会で友達の演奏を聴き、それぞれの個性や頑張りを感じ取る経験

  • 人間関係スキル:講師や保護者、他の生徒との関わりの中で、伝える力・聴く力を育む経験

  • 責任ある意思決定:「今日は何を練習するか」「発表会でどの曲に挑戦するか」を自分で選ぶ経験

それでは実際にピアノレッスンに置き換えて詳しくご説明しますね。

 

自己認識:「今、自分はどう感じているか」に気づく力

 

演奏という行為は、自分の思いがそのまま「音に現れたりします。」

そんな時こそ、ピアノレッスンは自己認識を育てる絶好の場になります。

 

事例:ある生徒さんは、練習してきた曲がうまく弾けなかったとき、とても悔しそうな顔をしました。「どうしたの?」と聞いても「別に、普通」とだけ言って何も言いませんでした。

「どんな気持ちだったか、また教えてくれる?」とだけ聞いて

しつこく尋ねることはしませんでしたが、次のレッスンの時、

その生徒さんが「いつもより、練習してたから、悲しかったし、もっとできたのにって思った」と、話をしてくれました。

 

私は自分の感情に、気がつき、意識出来るようになることが自己認識の大きな一歩だと考えています。

 

自己管理:感情や行動を、状況に応じて調整する力

 

練習をどう組み立てるか、うまくいかないときにどう気持ちを立て直すかを、

スモールステップでのレッスンは、自己管理の力を育てます。

 

事例:発表会に向けての練習が始まるとき、私は、苦手そうな箇所を取り出して先行練習するようにしています。最初に楽譜を渡した時に「ねぇ、どこの部分から練習する?」と尋ねたら

「ここが難しそうなので、この箇所から練習する」と自らの練習スケジュールを作成できるようになりました。

又「速く弾くところで、いつもつまずいていた生徒さんに、私は電子ピアノのテンポ変更機能を使い、「まずはゆっくりから、成功する速さで始めよう」と提案しました。最初は「遅いのはイヤ!」と抵抗していましたが、少しずつテンポを上げていくプロセスの中で、

「焦らず段階を踏めば、結果的に早くできるようになる」という感覚を、

本人が体で覚えていきました。今では、難しい箇所に出会うと、自分から「ちょっとゆっくりでやってみる」と言えるようになっています。

 

 

 

社会的認識:他者の気持ちや立場を思いやる力

 

発表会やグループレッスンは、他者を理解する力を育てる貴重な機会です。

事例:

発表会後の振り返りレッスンで、ある生徒さんに「お友達の演奏で、良かったところはどこだった?」と尋ねたところ、最初は「自分の演奏で精一杯で覚えていない」という反応でした。

けれど毎回の発表会後にこの問いかけを続けるうちに、

「〇〇ちゃんの、あの静かな部分の弾き方が優しい感じでよかった」と、

自分と他者を比べるのではなく、それぞれの個性に気づけるようになっていきました。

 

人間関係スキル:伝える力・聴く力

講師や保護者、他の生徒との関わりの中で、自分の考えを伝え、相手の話を聴く力が育まれます。

 

事例:連弾のレッスンで、お友達同士の二人の生徒さんのテンポ感が合わず、

お互いに苛立ちが見え始めたことがありました。

私はすぐに間に入って正解を教えるのではなく、「どっちのテンポが弾きやすい?お互いに聞いてみようか」と促しました。

二人で言葉を交わしながら折り合いをつけていく過程そのものが、

貴重な人間関係スキルの練習になりました。

 

責任ある意思決定:自分で選び、選んだ結果に向き合う力

「今日は何を練習するか」「発表会でどの曲に挑戦するか」を

自分で選ぶ経験を積み重ねることで、自分の人生を自分で決める感覚が育っていきます。

 

事例:発表会の曲選びで、ある生徒さんは「難しいけど憧れの曲」と「確実に仕上げられる曲」の間で悩んでいました。私はどちらが正解かを決めず、「両方に挑戦した場合、それぞれどんな発表会になりそうか、一緒に想像してみよう」と問いかけました。

結果的にその子は難しい曲を選び、本番までに思うように仕上がらない部分もありましたが、

「自分で選んだ曲だから、最後までやり切りたい」という気持ちで練習を続けました。

この「自分で選んだ」という感覚こそが、責任ある意思決定の本質です。

 

内発的動機づけを育てる声かけ

 

SELを育てるレッスンで、私が特に意識しているのは声かけの言葉です。

  • 「上手だね」ではなく「ここ、工夫したね」と、結果ではなく過程を具体的に言葉にする
  • うまくいかない箇所があれば、頭ごなしに直すのではなく、
  • 「どんな感じがした?」「どうしたら弾きやすくなりそう?」と問いかける
  • 「先生に言われたからやる」のではなく、
  • 「自分がこうしたいからやる」という感覚を、選ばせる場面を通じて育てる

 

SEL教育を軸にしたレッスンが目指すもの

音楽の技術と同時に、こうした非認知能力を育てていくことこそ、

これからの時代のピアノレッスンに求められている価値だと、私は考えています。

「弾けるようになる」ことは、もちろん大切なゴールの一つです。けれど、レッスンを通じて自分の感情に気づき、粘り強く取り組み、他者を思いやり、自分で選択できるようになった生徒さんは、たとえ将来ピアノから離れることがあっても、その力を人生のあらゆる場面で活かしていけます。34年間レッスンを続けてきて、私が一番実感していることです。