【第1回】
発表会は「挑戦の場」?それとも「達成の場」?
〜発表会の曲選びを考える① 自己効力感という視点〜
こんにちは、まるみえ先生こと中西美江です。
レッスン・プラス・ワン(LPO)で連載中の「聞いて!まるみえ先生」で、
今回は「発表会の曲選び」についてのご相談にお答えしました。
誌面では書ききれなかったことも含めて、
このブログで3回に分けてもう少し掘り下げてみたいと思います。
いただいたお悩みは、こんな内容でした。
少し挑戦できる曲を選びたい一方で、練習してくれないと本番までに仕上がらない可能性もある。まるみえ先生は発表会の曲選び、どのようにされていますか?
多くの先生が毎年ぶつかる悩みではないでしょうか。
まずは先生にとって「発表会の場」とはどういう場でしょうか?
選曲の前に、「発表会とは何か」を決める
選曲で迷うときは、「どの曲にするか」より
先に「発表会を何のための場にするのか」が決まっていないことが多いように思います。
- 生徒さんの成長を見せる場
- 新しいことに挑戦する場
- 教室の指導力を示す場
どれも間違いではありません。
でも、目的があいまいなままだと、選曲の基準も毎回揺れてしまいます。
私は、発表会を「生徒さんが達成感を味わう場所」と位置づけています。
挑戦は、日々のレッスンで十分にできます。
毎週のレッスンで「できた!」を積み重ね、
その成果を発表会で「やっぱりできた!」と確かめる。
発表会は背伸びの度合いを試す場ではなく、積み重ねてきた力を
安心して発揮できる場であってほしい。これが私の選曲の出発点です。
自己効力感 ── 「自分にもできる」という感覚
心理学者アルバート・バンデューラは、
「自分ならこの課題をやり遂げられる」という感覚を
自己効力感(Self-efficacy)と呼びました。
自己効力感の高い子は、新しい課題にも前向きに取り組み、
失敗しても粘り強く続けられるといわれています。
バンデューラは、自己効力感を育てるものとして4つを挙げています。
発表会に当てはめてみると、とても興味深いことがわかります。
| 自己効力感の源 | 発表会では… |
|---|---|
| ① 達成体験:自分でやり遂げた経験 | 本番で最後まで弾き切れた |
| ② 代理体験:身近な人の成功を見る | 仲間やお兄さん・お姉さんの演奏を聴く |
| ③ 言語的説得:「できるよ」と励まされる | 先生や家族からの言葉 |
| ④ 生理的・情動的状態:心身の落ち着き | 安心して舞台に立てる |
この中で最も強い影響を持つのが
①の達成体験です。ここに、選曲の答えのひとつがあります。
難しすぎる曲で本番を迎え、途中で止まってしまった。
そんな経験は自己効力感を育てるどころか、
「やっぱり自分にはできない」という感覚を残してしまうことがあります。
少し頑張れば届く」曲を確実に弾き切る経験こそ、
子どもに「自分にもできる」という自信をつける事ができるように思います。
「誰のための練習か」が変わってしまうとき
難しすぎる曲には、もうひとつ見落としがちな落とし穴があります。
仕上がらない不安が大きくなると、子どもの練習の目的は次第にこう変わっていきます。
- 「失敗するのがいやだから練習する」
- 「間違えたら恥ずかしいから練習する」
- 「先生やお母さんに怒られないように練習する」
教育心理学の達成目標理論では、
「上手になりたい、できるようになりたい」という習得目標と、
「よく見られたい、失敗したくない」という遂行目標を区別します。
前者を持つ子は困難に粘り強く向き合えますが、
後者が強くなると失敗を避けることが目的になり、
挑戦そのものを避けるようになりやすいといわれています。
練習の目的が「他者からの評価」にすり替わると、たとえ本番で弾けても、
「自分自身の目標を達成した」という実感が残りにくいのです。
だからこそ私は、本番の結果だけでなく、終演後に「ひとつ上のステップに進めたね」と、
その子の成長を言葉にして伝えることを大切にしています。
これは自己効力感の③「言語的説得」にあたります。
次回予告
では、「少し頑張れば届く」曲とは具体的にどう見極めればいいのでしょうか?
次回は、私が選曲で大切にしている「4つの視点」を、
自己決定理論や「発達の最近接領域」という考え方とあわせてご紹介します。
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