3つのアプローチとウェルビーイング
「進まない」を「進む」に変える3つの引き出し
教材の「設計思想」を理解し、生徒さん一人ひとりのタイプを見極めたら、
いよいよ実践編です。
「進まない」を「進む」に変えるための3つの具体的なアプローチをご紹介します。
アプローチ1:事前準備(先行練習)
「詰まる前に橋を架ける」これが私のレッスンの基本です。
難所が来る前に「同じ技術の易しい課題」を先行体験させ、
壁にぶつかる前に、あらかじめ小さな橋を架けておく発想です。
効果的な言葉掛けとしては「もうすでに出来ているよ」
具体的な方法アプローチを講座ではご紹介しています。
「えっ?そんなこと?」というくらい簡単なアプローチですが、
生徒さんにとってすぐに理解しやすいことが、「興味を持続して取り組む」ことの一番大事なことだと考えています。
これは以前お話しした「ポリヴェーガル理論の視点」からも理にかなったアプローチだと
私は考えています。生徒さんが「安全」を感じられないまま難所に突入すると、
緊張状態や固まる状態に入りやすくなります。
あらかじめ小さな橋を架けておくことで、生徒は「知っている」「できそう」という
安心感を保ったまま、新しい課題に向き合えるんです。
アプローチ2:教材魔改造(1曲多活用)
同じ曲を、テンポ・強弱・表現を変えて複数回演奏する。教材を「決められた通りに弾くもの」としてではなく、「素材」として自由に調理する発想です。
1冊の教材、1曲の楽譜には、実はたくさんの可能性が眠っています。ゆっくり弾けば「丁寧に音を確かめる練習」に、速く弾けば「指の俊敏さを鍛える練習」に、強弱をつければ「表現力を育てる練習」に変奏を加えてアレンジすれば同じ譜面が、まったく違うレッスンアイテムに変わります。
「教材のページをどんどん進めていくこと」「教材を終えて1から2、2から3へどんどん進める」という成果中心のレッスンではなく、一つの曲で、じっくりとレベルをあげていくことで
生徒さん自身に「着実に力をつけている」実感を持ってもらうことこそ重要だと考えています。
アプローチ3:迂回教材(補完戦略)
詰まった部分を、別教材の易しい類題で補う戦略です。
ポイントは、「何が」苦手かという苦手の原因をきちんと特定してから、必要な教材を一時的に挿入すること。
例えば、指くぐりが難しいならバーナムの該当曲を一時的に挿入する、音符が読めないなら「ぴあのどりーむ」のワークで補強する、和音が苦手ならアルフレッドの和音ページを先取りする、リズムが苦手なら5線ノートでリズムだけを練習する、モチベーションが下がっているなら知っている曲のアレンジを弾く——原因ごとに、ピンポイントで手当てをしていくイメージです。
「変える/継続/併用」を迷わず判断するフレーム
3つのアプローチを知っていても、「そもそも、この教材を変えるべきか、続けるべきか」という判断そのものに迷ってしまうこともありますよね。
私はそのために、こんな判断フレームを使っています。
- 継続する:設計思想が発達段階と合っているか?
併用する:音楽体験・技術・読譜のいずれかが不足している部分を補う
変える:設計思想と発達段階のズレが大きい
この3つに関しても、講座の中で詳しくご説明しています。
「合わない=失敗」という思い込みから離れることが、
このフレームでいちばんお伝えしたいことです。
感情ではなく構造で判断できるようになると、指導そのものがぐっと落ち着いたものになります。
今日はあらためて
【ウェルビーイングとは何か】
ここまでご紹介してきた3つのアプローチと判断フレームに、
私が一貫して込めているのが、ウェルビーイングという視点です。
ウェルビーイング(Well-being)とは、単に「病気ではない」「問題がない」という状態ではなく、身体的・精神的・社会的に「良好な状態」にあること、その人がその人らしく、満たされた形で生きていることを指す概念です。近年は教育の分野でも、学力や技能の向上だけでなく、
子ども自身が「学ぶことを楽しい」「自分は大丈夫だ」と感じられているかどうかが、
長期的な成長にとって重要だという考え方が広がっています。
心理学の分野では、ウェルビーイングを構成する要素として、ポジティブな感情、物事への没頭、良好な人間関係、人生の意義、達成感といった複数の側面が挙げられることがあります。
私はこれをピアノレッスンに置き換えて考えています。「音を出すのが楽しい」という
ポジティブな感情、練習に没頭できる集中、先生との信頼関係、音楽を通じて自分を表現できているという実感、そして「できた」という達成感
これらすべてが、生徒さん一人ひとりのウェルビーイングを形づくる要素だと感じながら、
日々レッスンをしています。
事前準備・魔改造・迂回教材は、
生徒さん一人ひとりのウェルビーイングを
確立するため
事前準備・魔改造・迂回教材、そして判断フレーム。これらすべてに共通しているのは、
生徒さん一人ひとりが自分の「できない」に直面させ続けるのではなく、
常に「できた」を積み重ねられるように、先生の側が環境を丁寧に整えていくという姿勢です。
私の指導観の核にある「スモールステップ」という考え方そのものであり、生徒さん一人ひとりのウェルビーイングを日々のレッスンの中で守り、育てていくための、具体的な技術でもあります。小さな一歩の連続が、生徒の内発的動機づけにつながり
「やらされる練習」ではなく「自分からやりたくなる練習」を育てていく。
急かさず、比べず、その子の歩幅で。「poco a poco(少しずつ、着実に)」という
私の教室のモットーなのです。
詰まった瞬間に「なぜできないの」と問い詰めるのではなく、「今、何につまずいているんだろう」と原因を特定し、安心できる形で橋を架け直す。
生徒にとってレッスンが「評価される場」ではなく「安心して挑戦できる場」であり続ける。
それこそが、「ポリヴェーガル理論での安全な神経系の状態」、
「SELでの自己理解や自己管理の力の土台」、
「ウェルビーイングでの大きな目標を、日々の10分、20分のレッスンの中で実現していく」
方法だと、私は考えています。
【保護者様への伝え方も、講座のもうひとつの柱です】
講座では、様々な保護者様からの相談などにどう寄り添い、どうお答えするのか?
を具体的な例を挙げてお話ししています。
教室と家庭の信頼関係を守るうえでも、生徒さん一人ひとりのウェルビーイングは、
教室の中だけでなく、家庭との信頼関係の中でこそ、より確かなものになると考えるからです。

日時:2026年9月28日(月)10:30〜12:00(受付10:00〜)
会場:平瀬楽器 藤原台センター
参加費:コミュニケーションカード会員 2,500円/一般 3,000円
お問い合わせ・お申し込み:平瀬楽器 藤原台センター(Tel:078-981-3510)
参考テキスト:全音「バーナムピアノテクニック 導入編」、全音「アルフレッドピアノ」、学研「ぴあのどりーむ」、ヤマハ「オルガンピアノの本」、デプロ「目から耳から感性を育てる ひくのだいすき1・2」、デプロ「こどものバイエル」、デプロ「しってる曲からはじめる 楽しいピアノ・レッスン1・2」、音友「アキピアノ教本」、サーベル「ぐんぐん伸びる ピアノ教本1・2」、サーベル「はじめてのピアノ教本1・2」
導入期のレッスンに自信を持ちたい先生、教材選びの基準がほしい先生に、特におすすめしたい内容です。