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レッスンは「安心」から始める  まるみえ流・ポリヴェーガル理論の実践

前回はレッスンで子どもが固まったり、そわそわしたりするのは「やる気」の問題ではなく、

神経系の状態のあらわれだ、というお話をしました。

吉里恒昭さんの「ポリ語」でいえば、

安心・つながりの「緑」、闘う・逃げるの「赤」、固まる・動けなくなるの「青」。

この3つの状態を、私たちは無意識のうちに行き来しています。

では、子どもを「安心」の状態に導くために、先生は何ができるのでしょうか。

今日は、私が実際のレッスンで大切にしていることをお話しします。

 

レッスンの「順番」を変えてみる

 

多くのレッスンは、「宿題の曲を弾く → 直す → 次の課題を出す」という流れで進みます。

もちろんそれも大切です。でも、神経系の視点から見ると、ひとつ足りないものがあります。

それは、技術指導の前の「安心づくり」です。私がいつも意識している順番は、この3つです。

  1. 安心:ここは安全な場所だ、と神経系が感じられるようにする
  2. つながり:先生と気持ちが通い合っている、と感じられるようにする
  3. 挑戦:そのうえで、新しいことや難しいことに取り組む

安心とつながりが土台にあると、生徒さんたちはは少しくらい難しい課題でも

「やってみよう」と思えます。

反対に、この土台がないまま挑戦だけを求めると、

神経系は身を守るほうへ向かってしまうのです。

吉里さんは、子ども向けの著書『子どもの心と体を整える

「ポリヴェーガル理論」入門』の中で、

子育てを「体と心の関係」と「大人と子どもの関係」という2つの視点から

見直すことを提案しています。

ほめ方や叱り方といったノウハウだけでは届かないところに、目を向けるということです。

 

ピアノのレッスンもまったく同じです。

どんなに良い教材や指導法があっても、

子どもの体が「赤」や「青」のままでは、その良さは届きません。

まず「緑」に戻れる関わりがあってこそ、技術指導が生きてくるのです。

 

まるみえ流・5つの実践

 

1. 最初の3分は「おしゃべり」から

レッスン冒頭は、すぐに曲に入りません。

「今日学校どうやった?」「その髪型かわいいね」。

やわらかい声のトーン、笑顔、目線の高さを合わせること。

ポリヴェーガル理論では、声の抑揚や表情は、

神経系に「安全」を伝える大切な合図とされています。

たった3分ですが、この時間があるかないかで、

その後の30分がまったく変わります。

 

2. それでいいよからスタートする

弾き終わったら、まず「できているところ」を具体的に伝えます。

「最初の4小節、リズムがぴったりやったね」

「ここの音、やさしくてきれいやった」。

ぽこあぽこ教室の「全部いいよの哲学」は、

できていないところより先に、できているところに⭕をつける考え方です。

⭕から始まるレッスンは、ニューロセプションに「ここは大丈夫」と届けてくれます。

 

3. スモールステップで「できた」を積み重ねる

 

難しい箇所は、片手だけ、2小節だけ、ゆっくりだけ、と小さく分けます。

大きな課題を前にすると、神経系は「無理かも」と身構えます。

でも、ちょっと頑張れば届く小さな目標なら、ドキドキは「ワクワク」に変わります。

小さな「できた!」の積み重ねが、自己効力感、つまり「自分はやればできる」という感覚を育てていきます。

 

4. 自分で選べる場面をつくる

 

「今日はどっちの曲から弾きたい?」「この部分、強く弾く?それともやさしく?」。

自分で選べることは、安心感と同時に、

内発的動機づけ(自分の内側から湧いてくるやる気)を育てます。

「やらされている」ではなく「自分で決めた」という感覚が、練習を続ける力になります。

 

5. 固まったら「戻る場所」へ

 

手が止まったときは、無理に先へ進めません。

得意な曲を1曲弾く、好きな音で即興遊びをする、先生と連弾をする。

一度「緑」の状態に戻ってから、また挑戦すればいいのです。

ある生徒さんは、新しい曲の譜読みになると決まって黙り込んでしまう子でした。

そこで、譜読みの前に必ず、その子が大好きな曲を一緒に弾くことにしました。

笑顔が戻ってから楽譜を開くと、驚くほどすんなり音を読み始めたのです。

神経系が安心に戻れば、子どもは自分の力で前に進めます。

 

電子ピアノも「安心の味方」

 

最近は、おうちで電子ピアノを使って練習している生徒さんがとても増えました。

私は電子ピアノを、とても前向きに捉えています。

たとえば、ヘッドホンを使えば「間違えた音を家族に聞かれたらどうしよう」という

緊張なしに、思いきり練習できます。

音量を気にせず自由に音を出せることは、神経系にとって大きな安心材料です。

録音機能で「先週より上手になった自分」を聴けば、

それも小さな「できた」の体験になります。

大切なのは、楽器の種類よりも、その子が安心して音楽と向き合える環境があるかどうか。

電子ピアノは、その入り口を広げてくれる心強い存在です。

 

  • レッスンは「安心 → つながり → 挑戦」の順番で
  • ⭕から始め、スモールステップで「できた」を積み重ねる
  • 自分で選べる場面が、内発的動機づけを育てる
  • 固まったら、無理に進まず「戻る場所」へ
次回は

先生と保護者の方の神経系が、子どもにどう影響するのかをお話しします。

次も楽しみになさってくださいね

 

今日の一冊

 

『子どもの心と体を整える「ポリヴェーガル理論」入門』 吉里恒昭 著/日本実業出版社

「ポリ語」を使って、ポリヴェーガル理論を子育てにどう活かすかを解説した一冊です。

子どもの悩みを抱える保護者の方だけでなく、

仕事で毎日子どもと向き合う教育関係者に向けても書かれています。

ピアノの先生にとっても、

レッスン室での子どもとの関わりを見直すヒントがたくさん詰まっています。