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「固まる」はやる気の問題じゃない 

 ポリヴェーガル理論で読み解くレッスン

2026年10月6日

「ちゃんと練習してきたのに弾けない」のはなぜ?

おうちでは上手に弾けていたのに、レッスン室に入ったとたん指が動かなくなる。

発表会の舞台で、頭が真っ白になってしまう。
保護者の方からも、生徒さん本人からも、本当によく聞くお話です。
そんなとき、「もっと集中して」

「緊張しなくて大丈夫よ」と声をかけたくなりますよね。
私も性格的に「励まし系」なんで「大丈夫」とか
「そんなん気にしなくていいよ〜〜ハハハ〜」的な声掛けが多かったのです。
でも、今までのレッスン経験を通してわかったことは
こうした場面は、やる気や根性の問題ではないし、
明るすぎる「頑張ろう」メッセージが効果的なわけでもないのです。

その理由をわかりやすく説明してくれるのが、

私が興味を持ち、様々な角度から勉強した「ポリヴェーガル理論」です。

少し難しそうな名前ですが、

レッスンの見え方がガラッと変わる考え方なので、

ぜひ最後までお付き合いください。

ポリヴェーガル理論とは?

ポリヴェーガル理論は、1994年にアメリカのステファン・ポージェス博士が提唱した、

自律神経についての理論です。

日本語では「多重迷走神経理論」とも訳されます。

とても奥が深い一方で、正直に言うと専門的で難しい理論でもあります。

その難しい理論を、私たちが日常で使えるようにやさしく解説してくれているのが、

吉里恒昭さんの著書『「ポリヴェーガル理論」がやさしくわかる本』です。

吉里さんは、体と心の状態を「赤・青・緑」の3色で表す「ポリ語」という

独自の言葉を使って、この理論を説明しています。

ポリ語

神経系の状態

からだと心の様子

レッスンでの姿

緑

腹側迷走神経系

(安心する・つながる)

落ち着いている、

人と関われる

笑顔で話せる、

試してみようと思える

赤

交感神経系

(闘う・逃げる)

ドキドキ、そわそわ、

イライラ

早口になる、弾き急ぐ、

ミスに過敏になる

青

背側迷走神経系

(固まる・動けなくなる)

動けない、

何も感じない

黙り込む、

ぼーっとする、

手が止まる

私が「ポリ語」という言葉をとても気に入っているのは、

他の方にも伝えやすいというところなんです。

保護者様に「ポリヴェーガル理論」についてお話しする時も、

難しい専門用語ではなく、状態を色で表すことで、

「感じ方を共有する速度がとても早くなるのです。

子どもにも保護者の方にも、「いま、ちょっと赤になってるかな?」と

声をかければ、誰も責めることなく、状態をそっと共有できます。

また、吉里さんの本の土台にあるのは、心と体は密接につながっていて、

体にエネルギーが戻ってくると心も整っていく、という視点です。

心の問題を「心だけ」でなんとかしようとしない。

これはピアノのレッスンにも、そのまま当てはまる考え方だと感じています。

もうひとつ大切なのが「ニューロセプション」という考え方です。

これは、私たちの神経系が、本人も気づかないうちに

「ここは安全か、危険か」を感じ取っているしくみのこと。

つまり、子どもが固まってしまうのは「わざと」でも「怠け」でもありません。

神経系が自動的に「ここはちょっと危ないかも」と判断して、

身を守ろうとしているのです。だからこそ、

「頑張りなさい」という言葉だけでは、

なかなか状態は変わらないんですね。

レッスンで見えるサイン

「そわそわ型」と「固まり型」

私はレッスン中、生徒さんの様子を2つのタイプに分けて見ています。

そわそわ型(ポリ語の「赤」/交感神経系が優位)

  • 弾き始めがどんどん速くなる

  • 一度間違えると最初から弾き直そうとする

  • 「あ、違う!」と自分を責める言葉が多い

  • 椅子の上でからだが落ち着かない

固まり型(ポリ語の「青」/背側迷走神経系が優位)

  • 質問しても返事が小さい、または返ってこない

  • 楽譜を見つめたまま手が止まる

  • 表情が乏しく、目が合わない

  • 「わからない」「できない」で止まってしまう

たとえば、ある小学生の生徒さんは、新しい曲に入るたびに「どうせできへん」と

鍵盤から手を下ろしてしまう子でした。

以前の私なら「やってみないとわからないよ」と励ましていたと思います。

でも今は、それが固まり型のサインだとわかるので、

まず楽譜を閉じて、好きな音を3つだけ鳴らしてもらうところから始めます。

大切なのは、サインを「問題行動」として叱るのではなく、

「いま神経系がどこにいるか」を知る手がかりとして受け取ることです。

今日のお話しのまとめです。

  • 子どもが固まったり、そわそわしたりするのは「やる気」ではなく、神経系の状態のあらわれ

  • 神経系は、本人も気づかないうちに「安全か、危険か」を感じ取っている(ニューロセプション)

  • サインを叱るのではなく、「いまどこにいるか」の手がかりとして受け取る

「じゃあ、実際のレッスンでは何をすればいいの?」と思われた方も多いと思います。

次回は、私が今までのレッスンの中で大切にしてきた、ポリヴェーガル理論を活かした

具体的な関わり方をご紹介します。どうぞお楽しみに。

今日の一冊

『「ポリヴェーガル理論」がやさしくわかる本

イライラ、不安、無気力、トラウマ…負の感情がラクになる』

吉里恒昭 著/日本実業出版社(2024年)

ポリヴェーガル理論を、体と心の調子を整えるために「実際に使える」形で解説した入門書です。赤・青・緑の「ポリ語」で自分の状態を見る視点は、レッスン中の子どもの様子を読み取るときにも、先生自身の状態をふりかえるときにも役立ちます。

ポリヴェーガル理論にはじめて触れる方に、まず手に取っていただきたい一冊です。

「間違えても大丈夫」を、仕組みで体感させる

ポリヴェーガル理論の視点で大切にしているのが、

「間違い=恐いもの」から「間違い=発見のきっかけ」への言葉の変換です。

ミスをした瞬間に先生が動じない様子を見せる。

「間違えたね」ではなく「今、指がどこに行きたかった?」と一緒に観察する。

練習の中に"わざと間違えてみる"時間をつくり、間違いを日常化する。

私が教室で大切にしている「全部オッケーの哲学」は

できた・できないで評価する前に、

まずは「今日も来てくれてありがとう」を伝えること

気持ちは肌で伝わるのです。

「今ある環境で音楽性を育てる 電子ピアノ時代のレッスンアップデート」

📅 2026年10月8日(木)10:30〜12:30(受付10:00)

📍 ヤマハミュージック 大阪なんば店 2Fサロン

👥 定員:60名 

💰 会員3,000円/一般3,500円(税込)

お申し込み:ヤマハミュージック大阪なんば店 TEL. 06-6531-8202