今回の「レッスン・プラス・ワン」は「大人のピアノレッスン」についてのご質問についての回答をしております。
全文掲載しております。
今回のお悩みは…・・大人の方の指導に不安があります・・
【お悩み内容】
(R.|先生)
大人の方のレッスン、不安を感じるのは自然なことだと思います。これまでお子さん中心で教えてこられた先生にとって、「大人の生徒さんを教える」と聞くと、構えたくなるお気持ちはとてもよく分かります。
* 子どもと違って素直に反応してくれないかも?
* 練習時間が少ないのでは?
* 上達がゆっくりなのでは?
* ・・・・・そんな心配、私も最初はありました。でも、実際にお会いすると、大人の生徒さんは”音楽への憧れ”と“自分の時間を大切にしたい”という想いを持って来られる方がほとんどです。そして、その想いに寄り添えるのは、"子どもさんに対して丁寧に寄り添ってきた先生”だからこそだと思います。
【大人のレッスンで意識したい、3つのポイント】
①「共感」と「承認」
大人の方は、自分を評価されるよりも「共感されたい」「理解されたい」という気持ちが強いです。たとえば、「今日はゆっくり丁寧に音を聴けていましたね」「このフレーズ、すごく優しい響きですね」といった言葉がモチベーションになりますので、上達よりも“心地よくピアノと向き合える時間”を提供することが大切です。
例えば・・・・・・今練習している作曲家、時代背景、作品の由来、さらには、ピアノの歴史を辿るお話や楽典のお話など、単にピアノ演奏の上達だけを目的とするのではなく、「この時間そのものが自分にとって豊かな時間なのだ」と生徒さんに感じて頂けることが「大人のピアノレッスン」の醍醐味だと思っています。
②「目的の多様さ」を認める大人の方がピアノを始める目的は本当にさまざま。
* 子どものころの夢をもう一度
* ストレス発散
* 指を動かして脳トレ
* 発表会で 1曲弾けたら嬉しい
など、「成果よりも、過程を楽しみたい」という方も多いです。目標を共有し、「その人にとっての満足」を一緒に探す姿勢が大切です。
③「安心感✕自己肯定感」を育てる子どもに限らず、大人も「できた!」という感覚は嬉しいものです。「前より音がきれいになった」「ここが滑らかに弾けた」など、レッスンの中でさな成長を一緒に喜ぶ時間をつくりましょう。
大人の方は「焦り」もたくさんお持ちです。だからこそ、小さな成長をご自身でしっかりと実感していただくこと、先生の感じた「成長」をしっかりと伝えることが大人のレッスンでは大切な要素です。
【まるみえ先生からの一言】
私自身、大人のピアノレッスンを始めて30年以上経ちました。昔も今も、自分より「年上」の方をレッスンすることが多いので「言葉の使い方」「接し方」に一番気を使っています。こちらの立場は「先生」であっても、人生経験豊富な方に対して接する時には「尊敬の念」を持つこと、そして「自分の知らない経験のお話をしっかりと聴く姿勢」が大事だと思います。こちらのそういう姿勢はきっと相手にも伝わります。
“目には見えない気持ちのつながり”が、大人のピアノレッスンには不可です。ご自身の今までの音楽経験を活かして、ピアノレッスンが「自分(生徒さん)にとっての上質な時間」に感じて頂けるような空間を意識して作られると良いと思います。

大人のピアノレッスン」に不安を感じたときに
今日は「大人の生徒さんを教えるのが不安です」という先生のお悩みにお答えした記事を書きながら、
私自身が改めて感じたことを、“専門的な視点”から少し整理してみたいと思います。
不安は「関係性の準備段階」
まず、先生が感じる「不安」は、決してマイナスではありません。
行動分析学の視点から見ると、
不安とは「よりよい行動を取ろうとする準備反応」でもあります。
つまり、「大人の方に失礼がないように」「心地よく過ごしてもらいたい」
──この“相手を大切に思う気持ち”が、不安という形で表れているのです。
教育者としての共感力が高い先生ほど、不安を感じやすい。
けれどそれは、レッスンを“人と人との関係”として捉えている証拠だと思います。
共感と承認は、自己効力感を支えるエンジン
大人の生徒さんは、「評価」よりも「理解されたい」と願っています。
「今日は音をよく聴けていましたね」
「このフレーズ、とても優しい響きですね」
こうした言葉は、単なる褒め言葉ではなく、
行動のプロセスを認める“プロセス承認型フィードバックです。
このタイプのフィードバックが「内発的動機づけ(Intrinsic Motivation)」を高めるとされています。つまり、生徒さんが「次もやってみよう」と思える力を静かに育てているのです。
「目的の多様さ」は“自己決定理論”の実践
大人の方がピアノを学ぶ理由は、本当に多様です。
ストレス解消、夢の再挑戦、脳トレ、音楽の癒し…。
講師が「あなたにとって大切な目的は何ですか?」と問うことで、
生徒自身が自分の動機づけを再確認し、学びの主体が“先生から自分へ”とシフトします。
この瞬間こそ、レッスンが“支援”から“共創”へ変わる転換点なのです。
「安心感 × 自己肯定感」は
ウェルビーイング教育の要
大人のレッスンで意識したいもうひとつの軸が、
「安心感」と「自己肯定感」です。
ピアノの音が“自分らしさ”を映し出す時間になると、
生徒さんは「弾くこと=生きること」と感じ始めます。
正しく“ウェルビーイング”な時間ではありませんか?
尊敬と傾聴
私はいつも思います。
年上の方をレッスンする時、一番大切なのは「教える」ではなく「聴く」こと。
相手の人生経験を尊敬し、その中に音楽という彩りを添える作業をする事が
ピアノレッスンではないでしょうか?。
レッスンの主導権を一方的に握るのではなく、
“音楽を通して共に学ぶ関係”を築くことで、
お互いの存在がより豊かになります。
まとめ:レッスンは「音の対話」
大人のピアノレッスンは、“指導”ではなく“音の対話”。
先生が与えるのは、技術ではなく場の安心。
生徒が得るのは、成果ではなく自己理解。
ピアノは、人生の縮図のようなものではありませんか!
ピアノを通しての大人同士の尊敬し合える関係を構築していきませんか?