
「弾かされる曲」から「弾きたい曲」へ
〜発表会の曲選びを考える② 選曲の4つの視点〜
こんにちは、まるみえ先生です。
今回は、私が実際の選曲で大切にしている「4つの視点」をご紹介します。
やる気の3つの栄養素 ── 自己決定理論
その前に、ひとつ理論をご紹介させてください。
心理学者のエドワード・デシとリチャード・ライアンは、
人が内側からやる気を持ち続けるためには、
次の3つの欲求が満たされることが必要だと考えました(自己決定理論)。
- 有能感:「自分はできる」と感じられること
- 自律性:「自分で選んでいる」と感じられること
- 関係性:「誰かとつながっている」と感じられること
私の4つの視点は、この3つにぴったり重なっています。
①「技術」の視点 ── 少し頑張れば届くか(有能感)
心理学者ヴィゴツキーは、子どもが一人でできることと、
大人の支えがあればできることの間の領域を
「発達の最近接領域」と呼びました。
子どもがいちばん伸びるのは、この領域の課題に取り組むときです。
発表会の曲で言えば、
- 今の力ですぐ弾ける曲 → 達成感が薄く、練習の意欲が続かない
- 先生が支えても届かない曲 → 不安と挫折感が大きくなる
- 先生の支えがあれば少し頑張って届く曲 → いちばん伸び、達成感も大きい
私が選曲で確認しているのは、例えばこんな点です。
- 曲の中の「難所」は何か所か。それは本番までの期間で練習できる量か
- 難所は今の課題の延長線上にあるか、まったく新しい技術か
- その子の練習時間や生活リズム(学校行事、習い事)で無理がないか
難所が多すぎる場合は、
テンポ設定やアレンジで調整します。
「少し頑張れば届く」ように、
曲を子どもに合わせる工夫も先生の大切な仕事だと思っています。
②「気持ち」の視点 ── 心が動く曲か(自律性)
練習してくれるかどうかは、
結局のところ生徒さん自身の「弾きたい!」という気持ちにかかっています。
リクエストがあれば、まず受け止めます。
難しい場合でも頭ごなしに「無理だね」とは言いません。
簡易アレンジや連弾にするなど、その曲への思いを形にする方法を一緒に考えます。
一方、生徒さんが知らない曲を提案するときには、必ずこんなメッセージを添えます。
「あなたにこの曲を弾いてほしいな」
「〇〇ちゃんだったら、この曲を誰よりも素敵に弾けると思う」
自己決定理論では、外から与えられた課題でも、
その価値を自分のものとして受け入れられれば、
やる気は内側からのものに近づいていくと考えます。
先生が選んだ曲でも、「先生は私のことを考えてこの曲を選んでくれた」と感じられれば、
それは「弾かされる曲」から「弾きたい曲」に変わるのです。
候補を2〜3曲用意して、最後は本人に選んでもらうのもおすすめです。
「自分で選んだ」という感覚は、本番までの練習を支える大きな力になります。
③「成長」の視点 ── この曲で何が育つか(有能感)
「なぜこの曲なのか」をきちんと説明することも、意外と大切です。
憧れの曲が今はまだ難しいなら、その曲に必要な技術を含む教材を選び、
「この曲が弾けたら、次はあの曲だね」
と伝えます。
発表会の曲はゴールではなく、次の一歩へつながる橋です。
見通しが持てると、子どもは「今の練習が何につながるのか」を自分で理解し、
練習に意味を見つけられるようになります。
先生にとっても、毎年の発表会の選曲を「点」ではなく「線」で考えることで、
その子の長期的な成長の道筋が見えやすくなります。
④「場」の視点 ── 聴く人と楽しめるか(関係性)
発表会は、ご家族やお客様と音楽を分かち合う場です。
私の教室では、ソロだけでなく講師との連弾、きょうだいでの連弾、
ご家族との合奏なども行っています。
「誰かと一緒に音楽をつくる」「聴いてくれる人に届ける」という経験は、
自己決定理論の関係性を満たし、「また弾きたい」という気持ちを育てます。
完璧でなくても、その子らしさが伝わり、「頑張った自分」を好きになれたら、
それが何よりの成功だと思っています。
4つの視点はバランスで考える
4つの視点がすべて完璧に揃う曲は、なかなかありません。
「技術的にはぴったりだけど、本人の気持ちが乗らない」
「本人は大好きだけど、少し難しい」
そんなときは、どこを工夫で補えるかを考えます。気持ちが乗らないなら提案の言葉を変える。
少し難しいならアレンジや連弾で調整する。
選曲は「曲を選ぶ」だけでなく、「その子に合う形に整える」ところまでが含まれていると
私は考えています。