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「弾かされる曲」から「弾きたい曲」へ

レッスン・プラス・ワン225号

· ポリヴェーガル理論,ウェルビーイングでいこう,聞いて!まるみえ先生,LPO連載中
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「弾かされる曲」から「弾きたい曲」へ

〜発表会の曲選びを考える② 選曲の4つの視点〜

こんにちは、まるみえ先生です。

今回は、私が実際の選曲で大切にしている「4つの視点」をご紹介します。

やる気の3つの栄養素 ── 自己決定理論

その前に、ひとつ理論をご紹介させてください。

心理学者のエドワード・デシとリチャード・ライアンは、

人が内側からやる気を持ち続けるためには、

次の3つの欲求が満たされることが必要だと考えました(自己決定理論)。

  • 有能感:「自分はできる」と感じられること
  • 自律性:「自分で選んでいる」と感じられること
  • 関係性:「誰かとつながっている」と感じられること

私の4つの視点は、この3つにぴったり重なっています。

①「技術」の視点 ── 少し頑張れば届くか(有能感)

心理学者ヴィゴツキーは、子どもが一人でできることと、

大人の支えがあればできることの間の領域を

「発達の最近接領域」と呼びました。

子どもがいちばん伸びるのは、この領域の課題に取り組むときです。

発表会の曲で言えば、

  • 今の力ですぐ弾ける曲 → 達成感が薄く、練習の意欲が続かない
  • 先生が支えても届かない曲 → 不安と挫折感が大きくなる
  • 先生の支えがあれば少し頑張って届く曲 → いちばん伸び、達成感も大きい

私が選曲で確認しているのは、例えばこんな点です。

  • 曲の中の「難所」は何か所か。それは本番までの期間で練習できる量か
  • 難所は今の課題の延長線上にあるか、まったく新しい技術か
  • その子の練習時間や生活リズム(学校行事、習い事)で無理がないか

難所が多すぎる場合は、

テンポ設定やアレンジで調整します。

「少し頑張れば届く」ように、

曲を子どもに合わせる工夫も先生の大切な仕事だと思っています。

②「気持ち」の視点 ── 心が動く曲か(自律性)

練習してくれるかどうかは、

結局のところ生徒さん自身の「弾きたい!」という気持ちにかかっています。

リクエストがあれば、まず受け止めます。

難しい場合でも頭ごなしに「無理だね」とは言いません。

簡易アレンジや連弾にするなど、その曲への思いを形にする方法を一緒に考えます。

一方、生徒さんが知らない曲を提案するときには、必ずこんなメッセージを添えます。

「あなたにこの曲を弾いてほしいな」
「〇〇ちゃんだったら、この曲を誰よりも素敵に弾けると思う」

自己決定理論では、外から与えられた課題でも、

その価値を自分のものとして受け入れられれば、

やる気は内側からのものに近づいていくと考えます。
先生が選んだ曲でも、「先生は私のことを考えてこの曲を選んでくれた」と感じられれば、

それは「弾かされる曲」から「弾きたい曲」に変わるのです。

候補を2〜3曲用意して、最後は本人に選んでもらうのもおすすめです。

「自分で選んだ」という感覚は、本番までの練習を支える大きな力になります。

③「成長」の視点 ── この曲で何が育つか(有能感)

「なぜこの曲なのか」をきちんと説明することも、意外と大切です。

憧れの曲が今はまだ難しいなら、その曲に必要な技術を含む教材を選び、
「この曲が弾けたら、次はあの曲だね」
と伝えます。

発表会の曲はゴールではなく、次の一歩へつながる橋です。

見通しが持てると、子どもは「今の練習が何につながるのか」を自分で理解し、

練習に意味を見つけられるようになります。
先生にとっても、毎年の発表会の選曲を「点」ではなく「線」で考えることで、

その子の長期的な成長の道筋が見えやすくなります。

④「場」の視点 ── 聴く人と楽しめるか(関係性)

発表会は、ご家族やお客様と音楽を分かち合う場です。

私の教室では、ソロだけでなく講師との連弾、きょうだいでの連弾、

ご家族との合奏なども行っています。

「誰かと一緒に音楽をつくる」「聴いてくれる人に届ける」という経験は、

自己決定理論の関係性を満たし、「また弾きたい」という気持ちを育てます。
完璧でなくても、その子らしさが伝わり、「頑張った自分」を好きになれたら、

それが何よりの成功だと思っています。

4つの視点はバランスで考える

4つの視点がすべて完璧に揃う曲は、なかなかありません。
「技術的にはぴったりだけど、本人の気持ちが乗らない」
「本人は大好きだけど、少し難しい」

そんなときは、どこを工夫で補えるかを考えます。気持ちが乗らないなら提案の言葉を変える。

少し難しいならアレンジや連弾で調整する。

選曲は「曲を選ぶ」だけでなく、「その子に合う形に整える」ところまでが含まれていると

私は考えています。

次回もお楽しみに・・・